
作業療法士、理学療法士、言語聴覚士などのリハビリ職種の年収が、一般職種や他の医療職と比べて低いことは周知の事実です。
国家資格であるにもかかわらず、なぜリハビリ職種の年収は、これほどまでに低いのでしょうか?
最も大きな原因は昇給率の低さにあります。
昇給率は聞いたことがあるけれど、実際に昇給率を確認したことがないという人や、良くわからないという人も一度確認することをおすすめします。
昇給率は生涯年収に関わる大事な観点です。
リハビリ職種の年収が低い要因と、一般的な昇給率との違いや、昇給率の相場感はどの程度なのかを解説していきます。
昇給とは

昇給とは基本給の額をあげることをさします。
一般的には毎年4月に1回程度行う企業が多いです。
によると、資本金10億円以上かつ従業員10000人以上の、労働組合のある企業348社を対象に行われた調査では、2024年の賃上げ額は17,415円です。

世間はそんなに昇給しているの?と驚く人も多いのではないでしょうか?
もちろん大企業や、中小企業によっても違いはあります。
医療職の人たちの昇給って本当に微々たるものですよね。
良くて7千円程度、悪ければ500円~0円のところも実際にありますよ。
昇給率と昇給金額の計算方法
昇給率の計算方法
昇給額÷昇給前の給与×100=昇給率
例えば基本給が200,000円だったのが210,000円に上がった場合の昇給額は10,000円です。
先ほどの計算式をもとに計算すると、10,000円/200,000円=0.05×100=5%です。
そのため、昇給率は5パーセントになります。
5パーセントの昇給というのは、リハビリ職種ではほぼないと言っていいでしょう。
物価高上昇よりリハビリ職の昇給率はかなり低い

2023年の消費者物価指数は3.1%です。
2024年の消費者物価指数は2.5%です。

これは商品がどれくらいの%で値上がりしたかという数値です。
それに比べて、リハビリ職種の昇給率はどの程度かと言うことを説明していきます。
2024年に発表した中小企業の賃上げ率の平均は4.1%でした。
リハビリ職種の平均昇給率は、約1.84%です。このデータは2022年に経団連が発表したものです。

物価が2.5%の上昇だとしても、1.84%だとリハビリ職の昇給率の方が低いということですね。
相対的に買えない物が増えるということだよね…。
年月日が違うので、一概に比較できませんが、昇給率4.1%の上昇と、1.84%の上昇では、生涯給与に大きな差が出てくるというのも明白です。
わかりやすく20代では月に20万円の基本給をもらっているとしましょう。
200000×1.84%=3680円基本給があがるということです。
もちろん、基本給が上がるたびに昇給していくので、ある程度の賃金上昇は望めますが、一年で17,415円の上昇を見込める一般企業とは大きくかけ離れています。

また、3680円の基本給増額があるだけ、まだましな方ではないでしょうか?
私が勤めていた会社で、年に2000円しか上がらないという会社もありました。
全員が一律で2000円だけ上がるんです。
モチベーションとは?はて?ってみんななっていたのは言うまでもありません。
2000円だけ年に1回基本給が上る計算で、月収を計算してみましょう。
23から30歳までは7年間あります。
そのため、2000円×7=14000円基本給があがります。
給与が200000だった場合、30歳の時の給与は214000円です。
10年たっても20000円しかあがりません。
結果的に年代が進んだとしてもほぼ同じような給与で働くことになるのです。
年代 | 月収 |
23 | 20万円 |
30 | 21.4万円 |
40 | 23.4万円 |
50 | 25.4万円 |
平均昇給率で計算した場合の給料よりも実際の給料のほうが低いことから、理学療法士の昇給率は一般的な昇給率と比較して低いことがわかります。
昇給率が低い原因として、リハビリの診療報酬などが関係しています。
以下で詳しく見てみましょう。

正直、若い時には満足できていた給与も、年齢とともに家族を養う身となれば、満足できなくなります。
また、経験を積んでも、給与が上がらないことでモチベーションの維持も難しくなってくるんですよね。
同年代の一般職の友人をみていると、毎年昇給がある程度の値段であって良いなと感じます。
リハ職の給与はなぜ上がらないのか
診療報酬制度の壁

時間によって計算される点数
リハビリ職種の診療報酬というのは、時間単位で計算されます。
20分が1単位とされていますよね。
そのため、一日に稼げる診療報酬はおのずと決まってきます。
これにより、人件費に対する収益はほぼ正確に計算できます。
リハ職は経験によって点数が上らない仕組み
もう一つは、経験年数が1年目でも20年目でも同じように、20分は1単位であるという点です。
リハ内容に関わらず一律の診療報酬の為、どれだけ有意義な20分を過ごしても、他の人と診療報酬による利益という点では変わりありません。
病院視点で考えれば、安い給与で同じだけ稼ぐ若いセラピストを欲しがっても、おかしくはありませんね。
リハビリ職種の数が多くなってきている

また、リハビリ職種の全体の数も多くなってきているということも、給与があがらない原因の一つです。
2025年問題のように、後期高齢者がピークに増えている時代は良いかもしれません。
しかし、それ以降は徐々に高齢者の数が減っていきます。
そして、リハビリ職の養成校の数は増えています。
厚生労働省が平成31年に出したデータがあります。
医療従事者の需給に関する検討会
第3回 理学療法士・作業療法士需給分科会

これによると、もう今現在でも需要が供給を上回りつつあるという結果です。
そして、2040年には1.5倍以上供給が上回るのではないかと推測されています。

PT,OTと職種が違うのに一緒くたに計算されているため、わからない部分もありますが、PT,OTとも10年後には就職できる場所の確保がかなり難しくなるかもしれません。
そのため、転職を考えるなら早い方が得策ですね。
そもそも病院は大きく黒字にはなりにくい
そもそも、国が作っている診療報酬制度に沿って運営しているため、病院は大きく黒字にはなりにくい傾向にあるんです。
2020年には63.6%もの病院が赤字になっていることをご存じですか?
もちろん、コロナの影響もありましたが、特に病院経営を圧迫するのが人件費です。
そのため人件費率は上げないようにするというのが鉄則です。

確かに診療報酬と言う名のルールがあって、その中での利益率がでないなら削れるところは削ろうとなりますよね…。
でも、予算不足人手が足りず、適切な医療が提供できるかも疑問ですよね…。
赤字病院に就職する前に確認
昇給率が業界平均に比べてどうか

基本的に一般企業では昇給率というのは、求人募集欄に記載してあるのが普通です。
しかし、医療機関では昇給率を記載している会社は少なく、面接時や見学時に聞かないと教えてくれない場合もあります。
転職にしても、新卒で入るにしても昇給率は確実に聞くべき項目です。
昇給率に納得して入らないと、後々後悔することになるからです。
そして、比べるべきは業界の平均的な昇給率に対して、どの程度の昇給率なのかという点です。
先ほどの項目で、1.84%という具体的な数字も出しましたが、昇給率は会社によって、全く違うと思ってよいです。
一般的にリハビリ業界では昇給が7000円程度あるとすればかなり高い方です。
そして、数百円というところも実際に聞くので、そういった病院では確実に将来的には、給与の不満と言うのが出てきて、中堅以上の人は、管理職以外は転職してしまうという現象がおきます。
中堅以上がいない場合、後輩指導などを担う人も若手となり、リハビリの質を保つことが難しくなる可能性も考えられます。
そのため、必ず昇給率は確認しましょう。
ボーナス算定はどの程度か、諸手当はどの程度か
基本給は安めで、昇給率は普通だけれど、ボーナスはしっかり払うよという会社もみられます。
ただ、ボーナスはその年の収益によって、変動する物なので数年分聞く方が良いでしょう。
例えば…「自分と同年代の方の年収はどの程度でしょうか?」と聞くことで、月収を差し引いて、ボーナスを計算することもできます。
また、諸手当が多く、基本給が安いというのも要注意です。
残業にしても、ボーナス算定にしても基本給のみにかかる場合が多いからです。
そのため、ボーナスが5か月分でますとなっても、基本給が低ければ、ボーナスの額も低くなってしまいます。
今後リハビリ職の給与があがる余地はあるのか?

国は、令和四年に「看護職員処遇改善評価料」を新設しているんです。
これはコロナによる賃上げ制度です。
対象には看護師だけでなく、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などのコメディカルも含まれます。
対象者になると、1%から段階的に3%の賃上げが行われます。
しかし、現状は救急搬送やコロナ対応に携わる施設に限られており、リハビリ職が対象になる機会は少ないかもしれません。
また令和6年度にはベースアップ評価料という項目が新設されています。
診療報酬制度が改定され、0.61%は看護師や薬剤師、コメディカルの賃上げを厚生労働省が促しています。

そこで、実際に給与がアップしたかどうかをコメディカルに聞いてみました。
20人中UPしたという人は残念ながらいませんでした。
ただ、施工されたばかりですし、病院はコロナで収益が落ちています。
そのため、病院の利益が出てからアップに踏み切りたい…という経営者がいることを願います。
このように、社会の賃上げの機運が、医療職にも来てはいるので、今後給与がUPする可能性もゼロではありません。
まとめ【昇給率にも注目し転職活動をするのがおすすめ】
今回はリハビリ職の年収が低い理由を解説しました。
特に昇給率の低さが、リハビリ職の年収の低さにつながっていると考えられますね。
またそれらは診療報酬制度の壁でもあるので、診療報酬が改定されなければ、医療機関の利益率はあがりません。
そのため、職員の給与も上がらないという現実があります。
ただ、世間の賃上げ機運にあやかって、医療職の質を担保するためにも診療報酬の改定が今後もなされる可能性は十分にあります。
また、昇給率は病院によっても違うため、できる限り昇給率の高い医療機関に勤めることで、年収の格差は広がりにくいです。
転職時にも昇給率をしっかり確認して、納得した上での転職をおすすめします。